海の何でも質問箱
−ある授業の実践から−
富山商船高等専門学校 名誉教授
石森繁樹
 工学系の大学で海についての講義をしている。そこで海洋学の基礎知識
と富山湾がもつ特徴や日本海が抱える問題を解説してきた。聴講生は主に
機械や電子情報を専攻する学生で、これまで海の話を聴く機会はほとんど
無かったという。授業項目は、わたしたちの暮らしと海、海と船、海洋と
資源、海洋環境の保全、海洋と日本の安全保障、海洋の国際法、日本海の
特性、日本海をめぐる諸問題、富山湾−その恵みと神秘、富山湾沿岸域の
開発と環境保全、海洋観測と技術(海の観測とリモートセンシング、富山
湾の観測例)、海洋科学が描く近未来の夢などである。各回の講義後に聴
取した学生の質問、感想をとりまとめてみた。
 講演では多岐にわたる約150問を紹介したが、いろいろな質問があって
面白い。珍問、奇問もあるが、現在も未解決な問題や事の本質を抉る鋭い
質問も少なくない。若者が抱くこのようなストレートな疑問に触れるとき、
海に対する人の潜在的な関心の高さを感じるのであるが、どういうもので
あろうか。海は近いようで遠い存在、というのが一般的な受け止め方かも
しれないが話しさえすれば容易に興味を持ってくれる、海はやはり人にとっ
て近い存在なのではないかと講義を通して教えられるのである。
 受講した学生から「富山県に20年間も住んでいるのに知らなかったこと
気付かなかったことをたくさん知ることができた、富山に住んでいながら
神秘的な海底林の存在も日本海に生息する生物についても全く知らなかっ
た、海は奥が深く面白いものだと感じた、いかに私たちが海から多くの恩
恵を受けているかを再認識した」などの感想を聞くたびに、教え甲斐を感
じるのであるが、同時に、もっと青少年に海を教える機会が増えることを
願いたいのである。
 それは、海洋国にしては国民一般の海への関心が低く、海についての知
識も不十分とはよく識者の指摘するところであり、日本の海洋政策の問題
点でもあるからである。
(海洋白書2005、海洋政策研究所、成山堂、p.27、『海洋をめぐる世界と
日本』、村田良平、成山堂、p.48、 「漂流する海洋日本」、読売新聞連
載記事、2006.6 など)
講演会の様子
☆参加者数 13名